【開催レポート】Kadai DXシンポジウム2026 「システム内製化で変わる組織・変わらない組織」
主催:香川大学
2026年7月31日(金)、香川大学幸町北キャンパス オリーブスクエアおよびオンラインにて、「Kadai DXシンポジウム2026」を開催しました。5回目の開催となる今回は、「システム内製化で変わる組織・変わらない組織」をテーマに、企業・大学におけるDX推進やシステム内製化の実践事例を共有しました。当日は、現地とオンラインを合わせて350名を超える方が参加し、全国の大学や企業など、さまざまな組織でDX推進に携わる方々にご参加いただきました。
シンポジウムでは、株式会社かんぽ生命保険、ホクレン農業協同組合連合会、香川大学による3件の講演に加え、香川大学のDX推進事例発表、パネルディスカッションを実施しました。また、前日には「Kadai DX塾 ハンズオン-AIエージェント編」でAIエージェント開発を体験するハンズオンを開催しました。シンポジウム当日の午前中には、学生主体のDXラボや非情報系職員であるデジタルONEアンバサダーによる「香川大学DX推進事例ポスターセッション」も開催しました。
講演①「AI・デジタルを前提とした業務の再構築」
1件目は、株式会社かんぽ生命保険 執行役員 兼 DX戦略部長の中根祐二氏が、「AI・デジタルを前提とした業務の再構築」と題して講演しました。
講演では、AIを単なる業務効率化の手段として捉えるのではなく、AIが存在することを前提に、仕事の進め方や人の役割を組み直すことの重要性が示されました。
具体例として紹介されたのが、コールセンターにおけるAI活用です。通話内容のテキスト化と要約によって記録作業を短縮するだけでなく、担当者が記録に追われず、これまで以上に顧客の話に向き合えるようにすることが、業務変革における本質的な価値であると説明しました。
また、組織に変化を促すためには、未来の姿を説明するだけでなく、小さくても実際に動くものを作り、触れてもらうことが重要だと紹介。業務部門、DX・IT部門、外部の専門家が一体となり、プロトタイプを改善しながら育てていくアジャイルな取り組みについても共有されました。

講演②「やってみる伝えてみる続けてみる-DX推進チームは、誰も命令されていない-」
続いて、ホクレン農業協同組合連合会 管理本部 ICT推進部 主任技師の大澤乃輔氏が、「やってみる 伝えてみる 続けてみる―DX推進チームは、誰も命令されていない―」と題して講演しました。
大澤氏は、紙中心だった業務環境の中で、自らMicrosoft Power Appsなどを学び、身近な業務課題の改善に取り組んだ経験を紹介しました。最初のアプリをきっかけに、職員向けの相談会や、一人ひとりの課題に寄り添う伴走支援を継続したことで、職員が自ら改善に取り組む動きが組織内に広がっていったと説明しました。
全体に気づきを与える相談会を「塾」、個別に寄り添う伴走支援を「家庭教師」に例え、両方を組み合わせることで、職員が「自分にはできない」という状態から「自分でもできるかもしれない」へと変わり、自走につながっていく過程が紹介されました。
こうした活動を経て、所属や世代を超えて職員が自発的に参加するDX推進チームが発足。講演時点では190名が参加しており、事例共有会やランチタイムの情報発信などを通じて、組織内の実践を横につなぐ活動が進められていました。
大澤氏は、DX推進で重要なのは技術だけではなく、現場の課題を知り、挑戦する人を信じ、背中を押すことであると説明しました。小さな実践を共有し、周囲へとつなげていく取り組みが、組織全体の変化につながることが示されました。

講演③「香川大学のDX推進の取り組み ~香川大学はAIエージェントまで内製開発するの!?~」
3件目の講演では、香川大学情報化推進統合拠点DX推進研究センター副センター長・創造工学部教授の米谷雄介が、「香川大学のDX推進の取組~香川大学はAIエージェントまで内製開発するの!?」と題し、本学のDX推進、人材育成、システム内製化の取り組みを紹介しました。
香川大学では、学生主体の開発チーム「DXラボ」と、非情報系職員が自ら業務改善に取り組む「デジタルONEアンバサダー制度」を通じて、現場の業務知識とシステム開発の専門知識を組み合わせた開発を進めています。
講演では、落とし物管理システム「カダミッケ」や、卒業・進級要件を判定するAIエージェントをはじめ、内製開発の事例を紹介しました。また、デジタルONEアンバサダーによって、2022年度から2025年度までの4年間に324件の開発が報告されたことも共有されました。
一方で、開発したものが使われない、作りたくても作れない、既存業務の延長線上では新しい発想に至らないといった課題も提示しました。そのうえで、市民開発者、プロ開発者、ITプロフェッショナルが連携する「フュージョン開発」に加え、利用者の体験を起点とするUXの視点や、現場のニーズと新たな技術を組み合わせることの必要性を説明しました。

香川大学DX推進事例紹介
講演後には、香川大学における6件のDX推進事例を発表しました。前半の3件では、非情報系職員が日常業務の困りごとを出発点として開発した事例を、後半の3件では、DXラボの学生スタッフが生成AIなどを活用して開発した事例を紹介しました。
香川大学を「AI名刺」でスマートに
紙の名刺をスマートフォンで撮影し、AIで情報を読み取ってデータ化するアプリを紹介しました。名刺情報の検索や、カテゴリー・メモによる引き継ぎを可能にし、部署異動後も人とのつながりを組織の情報として活用できる仕組みです。
貸出ロッカー管理システム
紙で行っていた学生向け貸出ロッカーの申請を電子化し、空きロッカーの割り当てやメール通知、返却期限前後のリマインドを自動化した事例です。申請情報をSharePointで一元管理し、Power BIによる利用状況の可視化にも取り組んでいます。
安全保障輸出管理と研究インテグリティに関する手続きの統合
対象が重複していた2つの申請手続きを統合し、Forms、Power Automate、SharePoint、Teamsを活用して、受付から関係部署による確認までを一元化した事例です。申請者と担当部署双方の負担軽減を目指しています。
生成AIを活用した出張申請支援システム「Trip Concierge」
イベントのWebサイトから開催期間や会場などの情報をAIで取得し、出張申請の入力を支援するシステムです。必要書類の案内や承認結果の通知などを通じて、申請者が感じる不安や負担の軽減を目指しています。
生成AIを活用した大学業務プロセスモデリング支援システム
大学職員が業務内容を5W1H形式で入力すると、生成AIが業務プロセスをモデル化するシステムです。業務を知る職員と開発を担う学生・専門家の間で生じる理解のずれを減らし、共通理解を形成することを目指しています。
デジタルスキルポートフォリオ可視化分析システム
学生の履修情報とデジタルスキル標準を対応付け、身につけたスキルを可視化するシステムです。学生には目指す人材類型に応じた科目や学習上のアドバイスを提示し、教員には担当科目やカリキュラムが育成するスキルを確認できる仕組みを提供します。

パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、香川大学DX推進研究センター副センター長・創造工学部教授の山田哲がコーディネーターを務めました。
パネリストには、講演者の中根祐二氏、大澤乃輔氏、米谷雄介副センター長に加え、日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 自治体・教育統括本部長の宮崎翔太氏が登壇しました。
ディスカッションでは、香川大学のポスターセッションや内製開発事例への感想を交えながら、組織が変化を続けるために必要な考え方や体制について議論しました。
宮崎氏からは、システム内製化の目的が、単なる開発コストの削減やベンダー依存からの脱却ではなく、組織が変化を起こし続ける能力を高めることへと変わっているとの説明がありました。また、DXを進められる組織と進めにくい組織を分ける要因として、技術だけでなく、現場が課題解決の主役となり、小さな挑戦と改善を繰り返せる組織文化の重要性が示されました。
中根氏からは、業務部門と開発側が技術を介して対話し、実際に動くものを見ながら認識を合わせることの重要性が語られました。大澤氏からは、一人ひとりの悩みや習熟度に寄り添い、仲間を増やしてきた積み重ねが、個人の活動を組織的な取り組みへと発展させた経緯が共有されました。
最後に山田は、議論を「新しいスキルを発揮できる環境をつくること」と「DX・AI活用が進むように組織を整えること」の2つの視点で整理しました。トップダウンとボトムアップの両面から環境を整え、内製化によって要件を自分たちで考え、決める力を取り戻すことが、変化を続けられる組織につながるとまとめました。


プレシンポジウム① Kadai DX塾 ハンズオン-AIエージェント編-
シンポジウム前日の7月30日には、「Kadai DX塾 ハンズオン-AIエージェント編」を開催しました。参加者は現地会場およびオンラインから参加し、Microsoft Copilot Studioを用いたAIエージェント開発を体験しました。
ハンズオンでは、香川大学におけるDX推進の取組を紹介した後、プロンプトエンジニアリングの体験や、休暇申請受付エージェント、休暇申請確認エージェントの開発に取り組みました。参加者は実際にエージェントを構築しながら、生成AIを業務改善へ活用するための考え方や手法について理解を深めました。
また、最後にはアイデア創出ワークショップを実施し、それぞれの職場や業務においてAIエージェントをどのように活用できるかについて意見交換が行われました。シンポジウム本編で議論された「システム内製化」や「現場主体のDX推進」の実践につながる機会となりました。


プレシンポジウム② 香川大学DX推進事例ポスターセッション
シンポジウムに先立ち、同日午前には、香川大学幸町南キャンパス 情報メディアセンター1階コモンズスペースで「香川大学DX推進事例ポスターセッション」を開催しました。
ポスターセッションでは、学生主体のDXラボで開発したシステムや、非情報系職員であるデジタルONEアンバサダーが、自らの業務課題を解決するために開発した取り組みを紹介しました。
来場者は開発者本人から、開発に至った背景やシステムの仕組み、実際の運用、今後の改善点について説明を受けました。職員や学生と参加者が直接意見を交わし、内製開発の経験や知見を共有する機会となりました。

まとめ
Kadai DXシンポジウム2026では、AIやシステム内製化の事例紹介だけでなく、それらを支える組織づくりや人材育成の重要性が共有されました。プレシンポジウム、ポスターセッション、講演、パネルディスカッションを通じて、多くの参加者がDX推進の実践知に触れる機会となりました。
登壇者や参加者に共通していたのは、「DXは特定の担当者だけが進めるものではなく、現場で働く一人ひとりが主体となって進める取り組みである」という考え方です。AIやシステム内製化が注目される中でも、その本質は人と組織の変革にあることが改めて示されました。
また、香川大学では独立行政法人大学改革支援・学位授与機構が公募した「令和6年度大学・高専機能強化支援事業(高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援)」に採択(支援2:一般枠)されており、デジタル技術を活用して課題解決に取り組む実践的な人材育成を進めています。DXラボでは、学生が実際の業務課題を題材としたシステム開発や生成AI活用に取り組みながら実践的な経験を積んでおり、本シンポジウムで紹介された事例の一部も、こうした取組の中から生まれています。
香川大学では今後も、システム内製化やAI活用を通じたDX推進と高度情報専門人材育成を地域と連携し進めるとともに、産官学が実践知を共有し、ともに学び合う場づくりに取り組んでいきます。次回も多くの方にご参加いただき、現場から始まるDXのヒントを持ち帰っていただければ幸いです。

関連リンク
(参考)香川大学 :: Kadai DXシンポジウム2026を開催しました ―システム内製化で変わる組織・変わらない組織―
(参考)『Kadai DXシンポジウム2026』ポスターセッション・メインシンポジウム資料公開 - 香川大学カダプラ|学びと実践トピックス
(参考)【開催案内】Kadai DXシンポジウム2026(2026/7/31)— システム内製化で変わる組織・変わらない組織 - 香川大学カダプラ|学びと実践トピックス
